昨年度の受賞作品展の来場者数は7万人を超え、国内外ともに注目のフェスティバルに成長した「文化庁メディア芸術祭」は、今年で15回目を迎える。
アート、エンターテイメント、アニメーション、マンガの4部門で2011年7月15日(金)〜9月22日(木)の期間に作品を募集し、それぞれから大賞1作品、優秀賞4作品、新人賞3作品、審査委員会推薦作品数十作品とメディア芸術の振興に寄与した人物に贈る功労賞1名が昨年12月に選出された。坂本龍一や荒木経惟らの写真集やアートブックを手掛ける編集者として活躍し、現在京都造形芸術大学教授を務める後藤繁雄や映画「イノセンス」「スカイ・クロラ」の監督である押井守など各部門で活躍するクリエイターらが審査員だ。2012年2月22日(水)から3月4日(日)まで、これらの作品を味わうことができる受賞作品展が、国立新美術館ほかサテライト会場にてで開催される。入場料は無料。また、受賞者への贈呈式は2月21日(火)に東京ミッドタウンにて行われる。
国内外から寄せられた過去最多の2,700件以上の応募作品の中から厳選され、大賞に輝いた作品を紹介しよう。
■アート部門/「Que voz feio(醜い声)」
人物の語る内容と記憶、国籍、言語など様々なレベルでの「差異」を鑑賞者に体感させるミニマルな映像作品『Que voz feio(醜い声)』に大賞が贈られた。双子の女性をそれぞれ2つの映像に映し出し、2人は「醜い声」になった理由だと思い当たる、幼少期の一つの思い出をそれぞれに語り出すのだが、しかし話は微妙に食い違っていく。私たちは過去の認識を共有できるのか、その可能性と不可能性を静かにあぶり出す、知的で繊細な視点が際立つ。
■ エンターテインメント部門/「SPACE BALLOON PROJECT」
「SPACE BALLOON PROJECT」大八木 翼/馬場 鑑平/野添 剛士/John POWELL
©SAMSUNG TELECOMMUNICATIONS JAPAN
大賞に選ばれたのは「この星の想いをつなぐ」をテーマに、スマートフォンGALAXY SⅡを特殊なバルーンに載せて遥か上空30,000mの成層圏へ飛ばし、その様子をリアルタイムで中継する壮大な宇宙プロジェクト『SPACE BALLOON PROJECT』。約90分のフライトの模様を衛星通信経由のUSTREAMを通じて配信し、Twitterなどで募集した「宇宙へ届けたいメッセージ」が飛行中のGALAXY SⅡに表示され、宇宙からの景色と共にリアルタイムで世界中に届けられた。過酷な通信環境の中、尽力した日米のスタッフを応援するツイートも数多く寄せられ、総視聴者数は38万人を突破した。 2011年のメディア環境を反映し、ひとびとのつながりやコミュニケーションがかたちとなった印象的な作品。
■アニメーション部門/「魔法少女まどか☆マギカ」
「魔法少女まどか☆マギカ」新房昭之(監督)
©Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
昨年に続くテレビシリーズから、日本のカルチャーシーンに多大なムーブメントと影響を及ぼした『魔法少女まどか☆マギカ』が受賞。漫画・小説の原作ものではなくアニメ用オリジナル作品という点が高く評価された。平凡な中学生の鹿目まどかの前に夢で見た少女・ほむらが現れたことをきっかけに「魔法少女」という存在の真実に直面し、「願い」の実現と引き換えに魔女と戦う契約の選択を迫られる。「願望」に潜む恐ろしさとそれを超える「奇跡」の感動という人の心が生み出し、表裏一体なものの存在を鋭く描きだした。アニメでは定番の「魔法少女もの」の設定を逆用し、観客が既成概念をゆさぶる批評的なワナを巧妙に仕掛けた意欲作。1週間経たないと続きがわからないテレビ放送の「メディア特性」を徹底活用し、心のせめぎあいのエスカレーションを美しい映像とともに極めている。変革のエネルギーに満ちあふれ、放送時の2ちゃんねるやTwitterでの反響の大きさにも新たな触媒となる可能性への期待を読み取れる。
■マンガ部門/「土星マンション」
「土星マンション」岩岡 ヒサエ
©岩岡ヒサエ/IKKICOMIX(小学館)
大賞は、地球が保護区域となり、人類が地上に住めなくなった近未来の世界で、人工の居住区域の中に暮らす人々の日常や生活を丁寧に描いた『土星マンション』。主人公ノ少年「ミツ」が職場や近所で出会う人々との交流を通して、仕事への誇りや自信を獲得していく成長を丁寧に描く。矛盾だらけの社会で無理やり住まわされてはいるが、自分たちで築き上げた愛着ある土地。そこで育まれた少年の新たな決意が、周囲との紐帯の中で醸成されていく過程が感動的だ。
また功労賞には、広島国際アニメーションのフェスティバルディレクターであり、アニメーションの制作や教育、振興に多大な貢献を果たした木下小夜子が選ばれた。
昨年度以上の盛り上がりが期待される受賞作品展には、これらの作品の他にも見所が盛りだくさん。ぜひ実際に足を運び、メディア芸術というカタチで表現された時代の動きを感じてほしい。
【開催概要】
第15回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
開催期間:2012年2月22日(水)~3月4日(日)
開館時間:10:00~18:00
※金曜日は20:00まで開館/入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁、国立新美術館)
観覧料:無料
公式HP:http://megei.jp/