トム フォード(TOM FORD)の2024年冬コレクションが発表された。
装いと身体は、逆説的な関係を結んでいると言ってよい。つまり、一般に衣服とは身体を覆い隠すもののように捉えられるが、しかし実際には、装いは身体のシルエットをなぞるとともに、それを隠すべきものとして措定することで、遡行的に素肌へとエロティックなヴェールをまとわせる。今季のトム フォードは、テーラリングやドレス、ミリタリーを軸に、まさしく装いによって身体の官能性を引き出してゆく。
ウィメンズ、メンズともにコレクションの軸のひとつとなっているのが、テーラリングだ。ピークドラペルのシングルブレストやダブルブレストを中心としたジャケットは、ショルダーはシャープなセットインに設定し、ウエストはシェイプさせることで、身体をなぞる流麗なラインに。また、その下には首周りを深く開けたジレを重ねるなど、フォーマルな装いのなかにも素肌との対比を取り入れている。
このように、縦のラインを意識したシャープな佇まいは、テーラリングのみならずコレクション全体に見て取れる。ドレスも例外ではない。アワーグラスドレスやスリップドレスといったドレスの数々は、丈感はロングやミニなどとさまざまながら、いずれもスリムなシルエットをベースに、身体のラインを感じさせるものへと仕上げた。
ミリタリーコートも、コレクションの一角を占めている。ダブルブレストのロングコートやミドルコート、ショートジャケットと、丈感はさまざまに、ここでも流麗なスリムシルエットを構築的な仕立てによって叶えている。それが過度にミニマルな表情とならないのは、フロントやエポーレットにきらめくゴールドカラーのボタンのためでもあろう。
素材もまた、身体の官能性を引き立てることに寄与している。「隠しつつも見せる」を体現するとでもいうべき、ドレスのシースルーファブリックやネット素材、コートなどに豊かな手触りを与えるファー、底光りするレザー、艶かしい光沢と質感を湛えたベルベットなどが、コレクションの随所に用いられた。