メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)の2023年春夏コレクションが発表された。
虚構とは通常、現実と齟齬をきたすがゆえに「虚構」である。純然たるトートロジー。だが、その虚構の精緻さを極めることで、現実の幻影へと誘う場合もありうる。トロンプ・ルイユをその例に挙げることができよう。たとえばフランドルにおける静物画は、本物と見紛うばかりに緻密な描写がなされた。あるいは17世紀イタリアの宮殿や教会の建築では、天井に突き抜けるような天空を繰り広げ、そこにキリストの姿などが描かれた。その幻影の舞台となるのが、ほかならぬ表層である。
今季のメゾン ミハラヤスヒロは、この表層を戯れる。絵画という平面が静物という立体を見せ、建築という閉じた空間が天空という開いた場へと広がるように。たとえばシンプルなプルオーバーやワンピースには、オープンカラーシャツやドレス、スカーフ、アクセサリーなどの絵柄をプリント。スカートにはプリーツを織りなすまた別のスカートを描きだすなど、衣服の内実と見かけの齟齬を表現している。
ブランドを特徴付ける解体・再構築的なデザインも、このトロンプ・ルイユに引き付けられる。MA-1は、スリーブの外側に大きくスリットを入れることで、ほとんどベストとでもいうべき姿に。また、デニムジャケットにカーディガンを、無地シャツにチェック柄を、あるいはMA-1にMA-1を重ねるなど、レイヤリングのデザインを多用した。
上にふれたように、ウェアの基調となっているのはワークやミリタリーのテイストだ。デニムアイテムに見られるように、それらは多くの場合、オーバーサイズでくたっと着慣れた質感、エイジングやダメージの加工を施し、日焼けや糸のほつれを再現するなど、ユーズド感あふれる見た目で仕上げられている。これもまた、一種のトロンプ・ルイユだといえる。