映画『ホリック xxxHOLiC』で主演を務める神木隆之介にインタビューを実施。初共演となる蜷川監督作品への出演エピソードから、“原作命”と語る徹底した役作り、そして子役時代から続けてきた俳優業に対する想いまで、たっぷりと話を伺うことができた。
■蜷川実花監督と神木さんは今回が初めての共演となりますね。オファーをいただいた際の率直な感想は?
蜷川監督の素敵な作品は以前から拝見していたので、オファーをいただいた時はもちろん嬉しかったのですが、同時に「何故、僕なんだろう?」という疑問も頭に浮かんでいました。何故なら蜷川監督って、皆さんがご存じのように、唯一無二の世界観を作る方じゃないですか。そんな“蜷川監督の世界”の中で、特別個性的でもない<ノーマルタイプ>の僕が選ばれた理由が全く分からなかったんですよね。
そこから初めて原作も手に取ってみたのですが、物語が面白くてどんどんのめり込んでいく一方で、僕自身がこのCLAMPの世界の一部となることにも不安やプレッシャーを覚えてしまって。本当に映像化できるのか…と、頭の中でもグルグルと思考が駆け巡っていました。
■実際に現場に入ってからは、いかがでしたか?
蜷川監督からは、「うん、神木くんは大丈夫だね。」と言われただけで、具体的な指示は特にありませんでした(笑)。一体僕の何が大丈夫なんだ?!と、戸惑いを感じたことをおぼえています。この時にはもう、蜷川監督についていけば何とかなる!といったマインドの境地でしたね。
■蜷川監督は案外あっさりした対応だったんですね(笑)。そこから神木さんご自身は、どのようなアプローチをしたのでしょうか?
他の実写化作品に関しても共通していることなのですが、原作の世界観を理解したうえで、キャラクターの特徴や性格を分析しました。あまり似せすぎるのもよくないですけど、アニメ作品がある場合、しゃべり方のクセなんかも押さえたうえで、役作りに反映させています。
どうして僕がここまで“原作命”なのかというと、実は僕自身が“漫画・アニメ大好き人間”なんですよ。俳優として演じる立場ではありますが、「原作をポンポン実写化してほしくない!」というファンの方たちの気持ちも凄くわかる。原作には原作にしかない面白さが、必ずありますから。
だからこそ今回のような実写化のオファーをいただいた際は、可能な限りの細かい設定を役へと落とし込みたいんです。僕の演技ひとつで、原作ファンの方たちを失望させたくありませんからね。
■そんな神木さん演じる四月一日役は、人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が視えるという、特殊能力の持ち主でした。原作を踏まえたうえで、演じるなかで難しかった点は?
実は今回、そもそも原作と実写化作品のキャラクターの設定が、結構異なったんです。原作だと四月一日は案外喋るし、テンションも少し高めな人間なんですけど、映画ではもっと彼の心の傷やダークな部分を描いているというか。そういった原作にはないバランス感覚で、暗すぎず、明るすぎない“塩梅”をとることは、僕にとって難しく感じました。
■確かに四月一日は、主人公の割に“おとなしい”印象がありました。
はい。あまり言葉で多くを語らない設定でしたので、その分一つのセリフにどれだけ感情を乗せることができるかが、凄く重要な要素となりました。
中でも思い出に残っているのは、柴咲コウさん演じる女主人・壱原侑子に、僕が「侑子さん」と呼びかけるシーン。僕のセリフの中で一番多く出てくるものなのですが、呼びかけの度に、いかに異なる感情のニュアンスを表現できるかが大変で。是非その絶妙な違いを、注目していただけると嬉しいです。
■映画では、蜷川監督ならではの美しいセットも魅力的でした。四月一日のビジュアル作りのうえでは、こだわった点はありますか?
四月一日は結構シンプルな立ち姿なので、ビジュアルで力を入れたのは“前髪のかかり方”くらい。四月一日の特殊な瞳をより印象的に見せるためには、前髪から程よく“ちらつかせる”程度が一番絵になったので、そのさじ加減にはこだわったと思います。またそれに伴い、僕自身も、力強い目力というものを意識していました。
■対価を得るために「大切なもの」を差し出す、作品のストーリーにちなんで、神木さんの最も譲れない大切なものを教えてください。
“自分の時間”ですかね。時間は絶対にもとに戻らないものですし、お金で買えるものでもないですから。誰になんといわれようと、自分の時間だけは絶対に渡したくないです。
母のオーディション応募がきっかけで、幼少期に芸能界へと足を踏み入れた神木隆之介。“天才子役”と呼ばれた名演技の数々もさほど遠くない過去に感じるが、来年(※2022年にインタビュー実施)には、そんな神木もいよいよ30代を迎えるという。長きにわたる俳優活動の中で、神木の覚悟やこれからの展望についても、話を伺うことができた。
・神木さんの幼少期の頃の活動は、ご家族の影響もあったかと思います。ご自身の意志で本格的に俳優を目指したいと思った時期は、いつ頃でしょう?
俳優として生きようと本当に決めたのは、高校を卒業した時ですかね…。子役時代は確かに親の希望でこの世界に入りましたが、テレビや雑誌にのれたという親の願いはすぐに叶ったので、5・6歳の時には「もう辞めていいんだよ」と言われていました。
けれど僕自身が訳も分からず楽しかったので、明確な目標もないまま小中高の間も続けていて。学校の進路指導があるたびに、僕の進路もどっちつかずでしたので、先生たちの悩みの種だったのだと思います。僕自身は、俳優業と学業の両立をすごく楽しんでいたんですけど、やはり体力的にきついこともあって、授業中は当時寝てばかりでしたし・・・(苦笑)。「やめるなら早くやめた方がいいよ」と、言われたこともありました。
・なぜ高校卒業がターニングポイントになったのでしょう?
高校卒業するタイミングって、周りの人生も一斉にガラリと変わる時期だと思うんですよ。僕の同級生も大学進学組や就職組でぱっくりと分かれていって、もうそれぞれが交わらない道にいるのだと、その時になって気づいたというか。
僕はその時点で大学へ進学する気持ちが一切なかったので、それならば自分の選んだ道で頑張らなきゃって、ある種の覚悟が芽生えたのだと思います。
・現在では多彩な役柄で活躍されていますが、子役時代から転換期となった作品はありますか?
何も思い浮かばないですね!本当に目の前の仕事をずっと楽しんでいただけだったので、「まだ子役のイメージが抜けない…」なんて、当時悩むことすらもなかったです。その分周りの大人たちが頭を抱えたのだと思いますが(笑)。
・そんな神木さんも2023年に30歳を迎えます。30代であえて挑戦してみたい役柄はありますか?
30代って渋みのある男性のイメージがあると思うんですけど…僕は余計にはしゃごうかなって思いました!(笑)「こいつ、自分のことをまだ子供だと思ってるんじゃないか?」と思われるくらい、ノリが良くて楽しい30代を迎えたいです。
今回の映画でも、久しぶりに高校生の役だったので制服を着たんですけど。結構ギリギリだな~って自分でも感じながら、ここまできたらいつまで制服を着れるかもチャレンジしてみたいって思っているんですよ(笑)。
・本当に楽しんでらっしゃいますね。子供時代に俳優を選んでいなければ、今どんな職業についてみたかったですか?
どこかの会社の営業員を一度経験してみたいです。あと小さい頃は電車が大好きだったので、JR東日本に勤めたいとも思っていましたね。けれど、やっぱり俳優という仕事が一番好きなのだと思います。