シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)2022-23年秋冬コレクションが発表された。
今季の着想源は、クラシカルバレエ「白鳥の湖」にインスピレーションを与えたというアイルランドの古い寓話「リルの子供たち」。アイルランドの王の子供たちが、嫉妬深い義母によって900年もの間“白鳥”に姿を変えられてしまうというダークな物語をもとに、ブランドらしい世界観を落とし込んだコレクションピースを制作した。
ショーノートに綴られた「砕いたタフタの翼」という言葉が意味する通り、今季は寓話の世界の“白鳥”を連想させる特徴的なディテールで溢れている。コートの前身頃には、翼のシェイプを模した白のブラウス生地が大胆に顔を出し、ふんわり広がるクリノリンドレスの裾には、小さな羽を一枚一枚重ねたような装飾をプラスした。また大きく分けてホワイト/ブラックの2色をメインにしたカラーパレットも、おそらく白鳥とブラックスワンに由来しているのだろう。
リボンの装飾がハラハラと揺らめく、シアー素材のドレスには、身を寄せ合うロマンティックな2羽の白鳥の姿を刺繍した。その二羽のクチバシの隙間にできた“ハート”シェイプは、ひとつのモチーフとしても独立していて、ギンガムチェックのブラウスとレイヤードしたブラックのドレスに大胆に登場。漆黒に浮かぶハート模様は、愛らしさ、というよりも物語の世界観に近しいダークな空気を帯びているのも印象的だ。
複雑なカッティングを加えたバイカージャケット、大きなリボンをあしらったボリューミーなドレス、ブルマのようなボトムスと2ピースで提案されたニットピース。今季もシグネチャーであるチュールやレースを重ねながらも、伝説の枠組みだけに囚われないブランド独自の物語を紡いでいく。
中でもひと際目を惹いたのは、ボディの中央をパネルで大胆に切り替えたベルベットドレスだ。重厚感のある生地を繋ぐのは、今にも消えてしまいそうなほど繊細なシアー素材。モデルのボディラインを透かせるセンシュアルな要素を持ちながらも、そこにはある種の緊張感が漂っていて、それは愛らしさと毒っぽさを併せ持つブランドを体現する言語であるようにも感じられる。
毎シーズン注目を集めるアクセサリーも充実。今季は頭から首まですっぽり覆うユニークなニットピースが提案されたほか、バレエシューズをドッキングしたかのようなフットウェアも登場。またシモーネ ロシャを代表するパール型のバッグは、ハートシェイプへと姿をかえるなど、今季のムードを詰めこんだデザインが多くみられた。