アポクリファ(APOCRYPHA.)の2022年春夏コレクションが、2021年9月13日(月)、東京の自由学園明日館にて発表された。ブランド初のランウェイショーとなる。
モードは儚い。一般的に言ってモードは、ひたすら前を向いて進む運動によって特徴付けられる。半年ごとに駆動される、軽やかなリズムでもってa la modeを競い、過ぎ去ったものはたちどころに打ち捨てられる。モードに後ろをまなざす眼はない。それでよいのだろうか──デザイナーの播本はそうしたモードの律動に異議を差し挟む。
後ろをまなざす行為、過ぎ去った対象に想いを馳せる喪の作業──それはたとえば「弔い」の身振りであろう。そして播本がこの「弔い」のモデルとしたのが、竹下道雄の『ビルマの竪琴』──太平洋戦争中にビルマで行われた、史上最悪の作戦ともいわれるインパール作戦の犠牲者を弔う作品であった。
“THE BOHDI”、すなわち「菩提」をテーマとした今季のアポクリアは、それゆえミャンマーにおける上座部仏教の僧服に強く着想を得ている。フリンジをあしらったポンチョはさながら袈裟のよう、ノースリーブのVネックトップスや袴のようなパンツなど、一見して僧服を彷彿とさせるものである。
夜の帳が降りつつある時間に行われたショーを反映するように、力強いレッドやオレンジといった鮮やかな色彩から、深く沈みゆくような黒色への移ろいが印象的である。とりわけブルゾンやショートにのせたヴィヴィッドな花柄は、ポリエステルの光沢感と艶やかな発色と相まって、赤く燃えるようなモチーフを強く印象付けている。
僧服にかんしてよりスペシフィックに言うならば、袈裟は複数の布地を平面状に組み合わせ、それを身体に巻きつけるようにして衣裳となす。それを反映して、ウェアのカッティングはあくまで直線的、身体に沿ってなめらかに曲線を描くというのではなく、布地の幾分の遊びをもってしてなだらかに落ちる。身幅を大きくとったステンカラーコートやノーカラージャケットにおいても、重力に身を任せた布地が織りなすシルエットは、かえって凛とした佇まいでもある。
あるいは、ふんだんにフリンジをあしらったシースルーのプルオーバー、レース状の透け感の繊細なブルゾンを見れば、バックが空気を孕んで緩やかに膨らみ、その重心は後方へと余韻を残すかのようだ──さながら残り香のように。モードの律動に駆られつつも、なろうことなら過ぎ去ったものに留まろうとする過去へのまなざしを、そこに感じてもよいのかもしれない。
──ただし付言するならば、インパール作戦の犠牲者を悼む『ビルマの竪琴』を弔いのモデルとする一方、ミャンマーの僧侶をデザインの着想源とするとしたとき、そこで広くアジアに対する日本の加害責任を忘れるべきではなかろう。