ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2022年春夏コレクションが、2021年9月3日(金)に発表された。
ドレスドアンドレスドは2021年春夏・秋冬の2シーズンにわたって、“仮面”をアリアドネの糸に、自己の外面と内面の関係性を主題化してきた。その問題意識を引き継ぐ3作目となる今季、テーマは“MORALS”──いわば、人びとが共存するための社会的に共有されるコードであり、そのうえで、個々人がそれを内面化することで自らの行動を律する倫理である。つまりそれは、人が身にまとう“仮面”を仮構する舞台──端正に、冷え冷えと設えられたガラスのそれ──にほかならない。
衣服の時と場を律する規則が“ドレス・コード”と呼ばれるならば、エレガントに仕立てられたテーラードジャケットは、その屈強な構築性でもってコードの代表格であるといえる。今季のコレクションにおいても、緊密なテーラリングは貴重をなすものであり、シングルブレストやダブルブレストのジャケット、そして端正なドレスシャツが、しなやかに洗練されたスタイルを提示している。
しかしエレガンスとは、何らかの“コード”という構造裡においていかにそれに適っているかという基準で形容されるものではなかろうか。そして構造が緊密に組み上げられていればそれだけ、そこから逃れるにはほんのかすかな逃走線を引けばよい。それゆえにエレガントなテーラリングスタイルを戯れるのは、むしろあどけなさすら感じさせるショートパンツであり、腕をまくりあげた着こなしである。
今、「戯れる」と記した。たとえばなんらかのゲームを考えるとして、通常それは2人以上のプレイヤーがより効率的に勝利を目指すものである。つまりゲームとは、ある規則内における合理性の追求である。一方、効率的でなくとも、あるいはゲームの勝敗に関わらずとも、そのゲームの規則において許される可能な手を打ってゆくこともできる。これはいわば「遊び」である。では「戯れ」とは何か。ゲームの規則の外部へと逃れ、規則の外側に波打ち、規則自体をぐらつかせることにほかならないであろう。つまりここで、構造からの逃走を指している。
緊密なコードの外部に流出し、それを絶えず揺らがせる──テーラードジャケットに規則的にあしらったメタルのリングやピン、あるいはマットなダブルブレストジャケットから垂れ下がるステッチは、そうした「戯れ」を彷彿とさせる。すると、もっと、ジャケットのショルダーからサイド、バックへと、氷が溶け落ちるかのように、光を辺りに反射させつつ散りばめられたボタンは、あたかも冷え冷えとしたガラスの舞台を砕き、飛沫(しぶき)を上げる一瞬のきらめきを捉えたかのようである。