ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON) 2021年秋冬メンズ・コレクションが、デジタルムービーで発表された。今季はパリとスイスの山間の村を舞台に、詩、ダンス、そして音楽など多彩なアート・パフォーマンスで表現された。
テーマとなったのは、ジェイムズ・ボールドウィンの代表的エッセイ「村のよそ者(Stranger in the Village)」(1953年発表)。アフリカ系アメリカ人としての作者の経験を綴ったその作品は、無意識の中に形成された、文化的なアウトサイダー対インサイダーという社会構造を捉えたもの。作者と同じルーツを持つヴァージル・アブローは、そんな人々が持つ無意識のバイアスを、ファッションを通してポジティブに変えるアプローチを試みた。
子供の頃なりたっかったものは何だろう?作家、アーティスト、ビジネスマン、建築家…?けれどそんな憧れの職業でさえ、私たちが無意識の中で型にはめてしまった、いかにも“典型的”な夢なのかもしれない。そしてそれらの職業を象徴するユニフォームも、自然と私たちの頭の中に存在するのも事実。コレクションの中では、そんな固定観念を打ち破るかのように、より自由なエッセンスを加えたワードローブが散見された。
例えばセールスマンを連想させるスーツジャケットのセットアップは、その品格はそのままに、ゆったりとリラクシングなシルエットで提案。重ねたロングコートは、かっちりとしたショルダーラインをもつマスキュリンな佇まいながら、床にだらりと裾が伝う、ルーズな要素を持ち合わせているのも面白い。
シルバーのキャリーケースを抱え、全身を同じ布地で覆ったモデルは、さすらいの流れ人だろうか。その佇まいはどこか見覚えがあるものの、本来のタフなイメージから乖離させているのは、そのファッショナブルな素材使いだろう。全身を彩る赤のチェック柄は、モノグラムをさり気なく配したこだわり仕様。おまけに胸元には、大きなコサージュを飾った、自由な精神で満ち溢れている。
カラーはグレーやホワイト、ブラウンといったベーシックなパレットに、鮮やかなグリーンをアクセントに差し込んで。また子供たちの夢や希望を、無限に広げてくれるような“飛行機”のキーモチーフが、あるときはジャケットのボタンに、ある時はニットのモチーフとして、楽し気にコレクションの中を交差している。
また今季はトランクやボストンバッグ、バックパックなど、新作アクセサリーも充実していた。中でも印象的だったのは“英字新聞”に見立てた、ユニークなクラッチバッグ。びしっととスーツで決めたビジネスライクなルックに溶け込みながら、大人の遊び心をたっぷりと感じさせてくれる、今季らしいアイテムといえるだろう。