ランバン(LANVIN) 2021年春夏コレクションが発表された。
ランウェイの舞台となったのは、16世紀に上海に造られた庭園・豫園。しばし“幸福の庭”とも形容されるその場所は、近代化が進む上海の大都市の中でも、どこか懐かしい田園風景を彷彿させる、中国の歴史的なスポットのひとつだ。
そして、そんな土地に潜む古きものと新しきもの、遺産と現代の交流は、今季のランバンのインスピレーションともなった。メゾンの遺産やイデオロギーを見つめ直したコレクションは、これまで紡いできた歴史を尊重しながらも、新たな未来へと繋ぐモダンな空気を宿している。
コレクションの幕明けを飾ったのは、メゾンの創業者 ジャンヌ・ランバンのシグネチャーであるローブ・ド・スタイル。18世紀のシルエットに着想したという、その伝統的かつロマンティックなフープドレスは、テーラリングとソフトなコートで再構築されているのが印象的だ。またアイコニックなリボンも今季は一捻り。従来の立体的な装飾ではなく、ある時は刺繍、ある時はプリントといった“二次元”的な表現によって、ドレスに遊び心をプラスしている。
中国美術から根強い影響を受けたといわれる、アールデコの要素も、今季を語る上で欠かせない要素といえるだろう。
それを顕著に感じられたのは、今は亡きフランスのアーティスト ジャン・デュナンとのコラボレーション。アール・デコの優れた漆芸家とも知られていたデュナンにオマージュを捧げたドレスやメンズシャツは、彼のシグネチャーである漆塗りの屏風のイメージを、プリント、ジャカード、刺繍などで多彩に表現。また彼のシンボリックな作品のモチーフのひとつ“金魚”も、ショーの終盤を飾る大切な役割を担った。
またランウェイには、序盤のボリューミーなフープドレスとは一変、アールデコを象徴する“直線的”なシルエットを起用したレディ トゥ ウェアも交差していく。目が眩むほどの鮮烈なレッド、幾何学パターンを並べたエキゾチックなドレスの要素も、この伝統的な美術に着想した今季を象徴する一着といえるだろう。
とはいえ、コレクションの細部に宿るのは、長い歴史を紡いできたメゾンへの止まぬ愛なのだ。愛娘のドレスの製作をきっかけに生まれた、メゾンのストーリーを語りかけるように、メンズ&ウィメンズのジャケットのボタンには“母娘”のマークを起用。また足元を飾るヒールは、象徴的なアルページュの香水のディテールを踏襲した、柔らかな楕円のシルエットを描いている。