ジョウタロウ サイトウ(JOTARO SAITO)の2020-21年秋冬コレクションが発表された。
1輪の花はさることながら、鏡や窓ガラス、水鏡に映じた花の像にもまた魅惑がある。「落ちる、鏡のなかに落ちる」──“Reflections of floral(花の反射)”をテーマとした今季のジョウタロウ サイトウは、さながら幻想的に光が反射する万華鏡、鏡の中で変幻自在に重なる花の姿を見せるようである。
主要なモチーフは、テーマどおり“花”にほかならない。大ぶりなドット模様にのせた花紋は細かな線で描かれ、モノトーンのコントラストが鮮烈なビアズリーの版画作品を彷彿とさせる。随所に施される染めの風合いも、豊かな表情を生んでいる。また、油彩風の花のモチーフは、闇夜の暗がりから現れるように、黒地の上に青や赤、そしてオレンジといった色彩で艶やかに表現されている。
いずれも、花のモチーフが着物全体を濃密なまでに覆い尽くす一方で、帯には草花の刺繍を繊細に、あるいはポップに施し、そして円形をグラフィカルを並べるなど、コントラストの効いた組み合わせが披露された。また、リバーシブルのコートやハオリにも、繊細な花をふんだんに咲かせ、あるいは花びらを重ねたような模様をあしらっている。
一方で、大胆なボーダー生地を使用し、あたかもブロック状に模様が構成された着物の数々は、濃淡さまざまなグレーを基調としており落ち着いた印象を与える。随所にぽってりとした大花が描かれ、あるいは繊細な植物の姿が刺繍で施され、その存在感を上品なかたちで主張している。
しかし、そのボーダーとは鏡のことではなかろうか──数多と並べられた“鏡”、あるいは“水鏡”には、繊細な線と濃密な図案で描かれた草花や、相異なる色彩や陰影で表現された花の姿が映し出される。なるほどコレクションの随所には、花のモチーフに加えて、揺らめく水面を思わせる青海ウロコの文様や、波打つようにうねるストライプ柄も散りばめられているのであった。
着物にのせられた花の姿は、あるものは極端に平面化・図案化され、その他方、あるものは繊細な線で描かれ、ないし艶やかなグラデーションと深い陰影でもって立体的な表現がなされ、それら多彩な花々が執拗に重なりあう。平面の花と立体の花とが混淆と咲き乱れるこの花園は、果たしてうつつか幻か──無限に反射する鏡の空間では、花の姿はいずれが実物で、いずれが鏡の像であるのかはもはや判然とせず、むしろその両者が魅惑的なまでに織り込まれているのである。