では、ピエール・カルダンは実際にどんな洋服を生み出してしていたのだろう。
ピエール・カルダンの代表作といえるのが、1960年代に生まれた「コスモコール・ルック」。人類が初めて月へ行くことになった60年代の自由や開放といったスピリットを表現したファッションで“フューチャリズム=未来派”と表現される。
特徴的なのは「円」のモチーフ。カルダンのデザインの源とされるこの「円」は、地球や宇宙を象徴するモチーフとして、1960〜70年代に流行した、流線・曲線・球体を使った「スペースエイジ・ファッション」、カルダンの名を一躍有名にした1954年の「バブルドレス」、同心円を描いた「ターゲット・ドレス」など、度々カルダンのコレクションに登場した。
ファッションに革命をもたらしたピエール・カルダンだが、その知名度を確固とさせたのは、ライセンスビジネスへの参入から。先見の明に長けているカルダンは、ライフスタイルにデザインという概念を初めて持ち込み、家具、タオル、食器類、壁紙などを手掛けて、“カルダンロゴ”を浸透させていく。特に、自動車は、世界で初めてデザイナーとして製作に携わった一人で、日本のメーカーの自動車も手掛けたという。
P.デビッド・エバーソール、トッド・ヒューズが所有する車「AMCジャベリン(1972年製)」もピエールが外装デザインを担当している。
洋服そのものだけでなく、纏う人=モデルとともにファッションの楽しみ方を伝えたのもカルダンの特徴。モデルは、白人女性が主流だった時代に、日本人モデル松本弘子を起用した。カルダンの招きでパリコレに参加した松本は“東洋の弘子”として、パリのモード界で活躍し、後にファッション誌『VOGUE』で編集の日本担当責任者になるなど、日仏のファッションの架け橋となる。
カルダンのファッションを振り返ると、国やカルチャー、ジェンダーなどの差を超えて純粋にファッションを楽しむ姿勢に触れることができる。“ユニセックスファッション”という考えを本格的に採用したのも、また、シーンなどに合わせて洋服を楽しむことを提唱したのもカルダンの功績だ。
近未来的な雰囲気をイマジネーションさせるカルダンのデザインは、エンターテインメントにも影響を与え、SFテレビドラマシリーズ『スター・トレック』の衣装のモデルになったとも言われている。
映画『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』では、カルダンを取り巻く人々の“生の声”で、よりリアルに彼の功績や人生に触れることができる。劇中では、ジャンヌ・モロー(フランスの名女優)との恋の話や、ビジネスのリベンジストーリーなど、人間味あふれる物語も綴られる。
監督からのメッセージ
「ピエール・カルダンは本当にデザイナー以上の存在です。若い人たちはカルダン自身の言葉を聞く必要があると思います。彼の言葉はインスピレーションの源であり、すべてが可能なのだという自信をもたせ、力づけてくれます。彼の仕事に対する姿勢は斬新で、予期せぬものの宝庫です。」
『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』
公開日:2020年10月2日(金)
監督:P.デビッド・エバーソール、トッド・ヒューズ
出演:ピエール・カルダン、ジャン=ポール・ゴルチエ、シャロン・ストーン、ナオミ・キャンベル、森英恵、高田賢三、桂由美