トム ブラウン(THOM BROWNE) 2020年秋冬コレクションが、2020年3月1日(日)にフランス・パリで発表された。ブランド初となる男女合同ショーの開催となる。
演劇的な演出で毎度観客を楽しませてくれるトム ブラウンのショー。今季会場に現れたのは、銀世界が広がる幻想的な雪景色。真っ白なパウダーで実際に埋め尽くされたランウェイには、その中央に大きな扉がそびえたっている。
そしてショーの始まりの合図と共に現れたのは、様々な動物のお面を被ったモデル達。中でも“リーダー格”のキリンが不思議な舞を繰り広げながら、ランウェイの中心へと躍り出ると、大げさなパフォーマンスと共に、扉のドアのぶをがちゃっとひねる。“さあ、ここからがファンタジーの世界の始まりです”といわんばかりにー。
こうして開け放たれた扉から現れたのは、1組のカップル。しかし口から上は黒のお面で隠されているため、性別はあいまいだ。そして視線を主役のワードローブへと目を落とすと、あれ…?なんと2人は全く同じジャケットスタイルを貫いている。男性モデルが女性ウェアを纏って登場した2018年春夏コレクションを彷彿させる、ジェンダーの垣根を超えた演出だが、今回はその“中性化”がさらに曖昧。1つのルックには両方の要素が複雑に交じり合っているからだ。
例えばテーラリングの美しさが際立つクラシカルなジャケット×パンツのスタイルには、上からスカートをレイヤード。またスーツを着ているように見えるトロンプイユの“ワンピース”を差し込んでいたり、ネクタイの代わりにリボンスカーフを巻いていたり。中には、片方にパンツ、もう片方にスカートといった、今季を象徴するような“中性”を示唆する大胆なルックも登場。シンボルとなるジャケットも、かっちりとしたショルダーラインをもつもの、滑らかなウエストのものなど、どちらかに偏ることはない。
シルエット、ウェア、アクセサリー…。従来2つに分かれてしまっている要素が混ざりあうことで、私たちの目には“どちらがどちらか”というジェンダーの境界線が引くことが難しくなる。こうして困惑する観客もお構いなしに、カップルの纏うジャケットは、実に楽し気なデザイン。先に登場した動物たちを集めたような“アニマル”柄をはじめ、トラッドなチェック柄もアレンジ。フェミニンなフリル付きや、ワイルドなミリタリー風、そしてアイコニックなトリコロールカラーも楽し気に差し込まれていた。
毎度注目を集めるバッグには、トム・ブラウンの愛犬であるアイコニックなダックスフンド“ヘクター”だけでなく、ブタ、ゾウ、ダチョウ、ライオン、馬、ねずみ…など、“ノアの箱舟”の動物たちをかき集めたような、豊富なバリエーションがラインナップ。いずれも全て、ジェンダーレスで楽しめるブラックで統一されている。
ラストに再び登場したカップルモデルは、それぞれ手を繋いだピースフルなムード。周りでその姿を見守っていた動物たちも心なしか嬉しそうだ。モデルが会場を後にすると、“例の”キリンが再びランウェイの中央へと踊りたち、ドアノブをがちゃりと締めて深々とお辞儀をする。しかしこの物語は決して終わりではない。この会場でみた“ファンタジーの世界”の続きは、私たちの未来にゆだねられているのだから。