ミュベール(MUVEIL)は、2020年春夏コレクションで、生涯花を愛し、花を描き続けた画家 ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテに想いを馳せた。花の魅力を伝える彼の作品世界が宿った服は、その花と同じほどに繊細で美しく、生命感がある。
虫眼鏡で見ても彼の作品は絵とは思えぬリアリティをもっている。花の瑞々しさも、愛らしさも、艶やかも、そして時に朽ちた表情さえも……。花との対話を重ね、短い一生を生きる1輪の花の一瞬を書き記す彼の絵に心奪われたデザイナーの中山路子は、洋服としてその魅力を纏えるようコレクションに託した。
あるときは刺繍によって。シースルーの中に立体的に咲く小さな花は、まるで微笑みを浮かべているかのように朗らか。愛らしくなりすぎぬよう、繊細かつ上品にのせてミュベールの世界にピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの世界を重ねていく。
そして、またある時は、ボタニカルなジャカードニットや、それから精緻なレースのレイヤードで表現。カジュアルなアイテムも、今季はとにかく花の愛らしさが添えられている。小物類も同じで、かごバッグには、スパンコールで鮮やかに花が描かれ、耳元に揺れるピアスは、まるで風に揺れる花そのもののような佇まいだ。
花の柔らかな魅力とは対を成し、身体の動きに連動する、流れるようなアコーディオンプリーツや、爽やかなストライプ柄といったシャープな印象を生む直線的な表現もある。あるいは、フェミニンを基軸にしながらも時折提案される、ワイドストレートパンツやオールインワンなどは、新しい花の魅力に気付かせてくれるマニッシュなエッセンスだ。