ディオール(Dior)のアイコニックなモチーフやシルエットはいくつかあるが、なかでも「カナージュ」はディオールの歴史を語る上でも欠かせないモチーフ。2018年7月にフランス・パリの ロダン美術館庭園で発表された2018-19年秋冬オートクチュール コレクションにも同じく登場している。
ディオールの2018-19年秋冬オートクチュール コレクションは、メゾンにおけるオートクチュールの意味を再定義するものだった。今も昔も変わらない「アトリエは神聖な場所」という考えのもと、クチュールの歴史を追い求める中で、マリア・グラツィア・キウリなりの解釈を加えていく。その上で「カナージュ」もコンテンポラリーなものへと変貌していった。
「カナージュ」は、刺繍が織りなす女性らしい繊細さと直線の重なりが魅せる力強さを蓄えたエレガントな格子柄。その誕生は1947年にまで遡り、ムッシュ ディオールが、オートクチュールショーでナポレオン3世に選んだ椅子のカナージュ柄に由来している。
そして後に、ダイアナ妃も愛したアイコンバッグ「レディ ディオール」に施されたことで、よりメゾンの象徴的モチーフとして認識された。現在ではパリ本社に置かれている椅子にも採用されており、世界中でメゾンを象徴するひとつのコードとなっている。
「カナージュ」を採用したアイテムとして、パウダリーカラーのヌーディーなドレスが挙げられる。
チュールにレイヤードする総レースは、歴史の古い装飾編みである“マクラメ編み”、あるいは布を使うことなく白い糸のみで施す刺繍“ホワイトワークス”に類似したものだが、その起点となるのは、紛れもなく「カナージュ」モチーフ。職人がひと針ひと針編み上げるなかで、糸通しをクロスさせたり、結ったりしてモチーフを複雑化させた。今までになかった「カナージュ」の表現は、まさにマリア・グラツィア・キウリのクリエイティビティに富んだビジョンの創出だ。
今季の会場は、メゾン70周年を祝して開催された『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』の会場を想わせる純白のトワルに囲まれていた。神聖な場所であるアトリエにオマージュ捧げるにはふさわしい空間で、オートクチュールの表現が新たな1ページを開いた。