ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)が、2018-19年秋冬メンズコレクションを2018年1月18日(木)にフランス・パリで発表。今季は、前回から引き続きとなるEXILEのパフォーマーNAOKIと、ミュージシャンのMIYAVIがモデルとしてランウェイに姿を現した。
漆黒の中に薄っすらと光の差し込んだファーストルック。パンツはスカートと見まがうほどワイドなタイプで、薄っすら光を感じられるグレーがかったジャケットにはロングジャケットをもう一枚。そこには、不気味な顔が刺繍によって描かれている。
どこか哀愁さえ漂わせる序盤のルックは、粋なレイヤードのテクニックで表情を変える。ワンピースのような縦長のトップスとのレイヤードは言わずもがな、特徴的だったフード付きコートは、“フードをレイヤードする”という斬新な発想。また、続いて登場するのは、アーム部分のレイヤードで、コーティングされた無骨なテクスチャーのレザーを縫い代部分をフリルみたいに出したまま、大胆に取り入れている。
不気味な顔がタイダイ染めのようなテキスタイルの上に再び現れたあと、スタイリングが大きく変化する。まるでワンピースほども丈の長い上に羽織ったアウターやオールインワンを、肩を落としてアシンメトリーで見せた。いずれも中にはシャツを着ていて、ウエストにはしっかりとベルトを締めている。続く、白いシャツに黒い図形のようなファブリックを無造作のごとく貼り付けたルックも含め、ある種、また違った形でのレイヤードの在り方なのかもしれない。
強烈なインパクトを放ったのはそのあと。「泥濘(ぬかるみ)」と大きくプリントされたチェスターコートに出会う。さらには「おいで私の泥濘に」という誘惑する言葉までのせられている。この意味深なグラフィックの中には、恐らく神様の文字、お賽銭を意味しているであろう硬貨、そして山本耀司の顔も現れるが、そこにある山本は泣いている。先ほどまでの不気味な顔と何か関連性があるのだろうか……。憶測ばかりが先行し、文字ばかりに目がいってしまいがちだが、実はテーラリングが秀逸。アウターはそれぞれラペルの有無、ヘムラインの長短、さらには素材使いまでがアシンメトリーになっている。
終盤にかけては、鮮烈な赤が登場し、女性が誘惑する様を映し出した。そして迎えるフィナーレ。漆黒の世界に戻り、表現手段として選んだのはクルミボタンが列をなすクラシカルなスタイル。これまでとは異なり、レイヤードや生地の分量をたっぷりとったドレープ感は少ない。端正なジャケットの下には透け感のあるシャツや、光沢のある滑らかなワンピースを重ねている。まるで何か取りつかれたものに開放されたかのように、その姿は洗練されている。
恐らく序盤こそヘビーだったレイヤードは、何かの取り巻きを表していたのだろうし、それが自身の葛藤の中で呪縛から解き放たれて、最後はありのままの姿であることができたのだろう。そこでふと、今回のショーの招待状にあった「大江山酒呑童子」が思い出される。一説では、生まれながらにして異常な才覚をもち、母親に捨てられ、その後鬼の世界へと足を踏み入れてしまったという物語。鬼という皆に恐れられる存在でありながら、最後の死に際は鬼としての生涯をまっとうしたとも伝えられる。
そんな酒呑童子の強い思いを捉えながら、現在の人間の哲学的なものに重ねあわせたのが今季のコレクションだったのではないか。人間としての欲望、葛藤、そして解放。一連の流れを見せられた気がした。