ギレルモ・デル・トロ最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』が、2018年3月1日(木)より全国公開される。ヴェネツィア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、アカデミー賞では作品賞、監督賞などを受賞した作品だ。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は、過去のトラウマで声を出すことができない一人の孤独な女性と、水の中で生きる、それはまるで半魚人のような不思議な生物との言葉を超えた“愛”を描いた”、一筋縄ではいかないお話。王道から見れば一種のアンチテーゼとも言える、”大人”のファンタジー・ロマンス作品だ。それは切なくも愛おしい。
ギレルモ・デル・トロはメキシコ出身の映画監督。特殊メイクから映画の世界に入った監督で、独特な世界観の作りこみに定評がある。代表作はスペイン内戦後を舞台に、悲しげな少女を描くダーク・ファンタジー『パンズ・ラビリンス』。菊地凛子が主演を務めた大作『パシフィック・リム』、アメコミ系の『ブレイド2』『ヘルボーイ』を手掛けていたり、最近の作品では、心霊屋敷が舞台にしたダークミステリー『クリムゾン・ピーク』を送り出した。『ホビット』シリーズでは脚本を担当している。
彼が生み出してきた映像は美しくも独特、時に残酷なものであり、拘り抜いたもの。キャラクターはどこか憎めなく、そして魅力的。モンスターをはじめとする奇妙な物品を愛し、“荒涼館”と呼ばれる自宅に収集していることでも知られているギレルモ・デル・トロだが、『シェイプ・オブ・ウォーター』ではモンスター×人間のラブストーリーが題材。過去の多くの作品と同じで今とは違う時代、冷戦時代が舞台の世界が舞台だ。
ギレルモ・デル・トロの作品の中でも珍しく今回はラブストーリーなのだ。さらに『パンズ・ラビリンス』を超えた?あるいは最高傑作ではないか?と言われている。
映画の公開を前に来日したギレルモ・デル・トロに『シェイプ・オブ・ウォーター』に関して話を聞いた。なお、後に、ギレルモ・デル・トロはこの映画でアカデミー作品賞(プロデューサーとして)、監督賞の2部門を受賞している。
ファンタジー(おとぎ話)を題材にしました。
ファンタジーでしか表現できない美しさがあると思っています。そして、それがもたらす物語のメッセージ性や詩的な意味での力強さを私は信じてます。
今、ファンタジーで描こうと思ったきっかけは?
愛、価値観、よそ者、異種に恐れている時代に、この物語が必要だと思いました。今日における思想として、他のものを信用するな、恐れろ…というものがありますね。
おそらく現代の設定では、世間の人は聞いてくれない。ですから、それを”声の出せない女性”と”不思議な生物”に置き換えておとぎ話としました。
時代背景に込めた意味についてお聞かせください。
アメリカが偉大になりつつあった時代が1962年。非常に裕福、宇宙に目が向いて、将来に希望があり、ケネディもホワイトハウスにいて。でも一方で、冷戦、差別などもあった時代。愛や感情への考え方が複雑で困難だった時代です。現代と1962年を似た時代のように捉えています。この時代をおとぎ話として語れば人は耳を傾けてくれるんじゃないか…と思いました。1962年にこんな話があった…というように。
映画という意味でも、今と1962年は似ている。今、映画は衰退しています。実は、1962年もテレビの影響で映画が衰退した時代。そういう背景から、映画に対する愛をこめて描いた作品です。
愛がテーマですが、それを声で伝えられない主人公ですね。
どれだけ彼を愛しているか伝えたいのに言葉が出てこない。
劇中アリス・フェイのYou'll Never Knowが何度か流れます。とっても泣ける歌ですね。私の母国メキシコでは、愛を伝える方法として歌を歌うことがある。愛を語る時にセレナーデを歌います。だから、彼女の想いを歌に乗せました。
言葉は嘘をつくことができるけども、言葉を発せない2人は誰よりも繋がることができる。言葉で嘘をつけないのは歌う時。
美しい衣装についてお聞かせください。
衣装も含めて美しさには拘りました。映画の中心は”不思議な生物”です。衣装も舞台も美しくして、生物が美しい中に存在するという風にしたかった。そして美しいだけでなく、今回のおとぎ話がリアルに感じられるセットとか世界観を作る必要がありました。
衣装が美しくても綺麗に見えなかったら台無し。どのような角度から見えると良いか、どんな明るさがいいかなど全て意識しました。
色についても同様ですか?
色についても綿密に計算しています。主人公のアパートの色は青、壁紙は魚の鱗で常に水中にいるかのようなカラーです。実は、鱗のデザインは北斎が描いた大きな鯉から取っているんですよ。他の人の家はオレンジや金色などすべて単色。緑は未来。例えば研究所など未来をイメージして緑。
そして赤は愛ですね。そこにもぜひ注目してください。
映画への想いをお聞かせください。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は言わばラブソング。ビジュアルと音でシンフォニーを奏でたかった。車で良いラブソングがかかってきたらボリュームを上げて歌い出す、そういうイメージで作りました。
映画への愛を込めた作品だと話しましたが、偉大な巨匠による作品ではありません。メキシコの表現で言えば”日曜シネマ”。気分が落ち込んだ時、そこまで重要とされていないコメディやドラマ、ミュージカルなどで気分が晴れることが私にもあります。そんな作品にこそ愛を持っているし、きっと見ている人たちと繋がれるはず。