ヴァレンティノ(VALENTINO)の2016-17年秋冬オートクチュールコレクションは、「世界劇場」というアイディアのもと、ウィリアム・シェイクスピア没後400年を迎えた年に、彼の持つ“人間の心の奥底を読み取り、それを鮮明に描写する才能”に注目した。
シェイクスピアは、世界で最も知られている劇作家。物語や主人公の魅力だけでなく、たったひとつの感情で民衆をひとつにし、時は違っても、それを表現し感じられることに2人のクリエイティブ ディレクターは魅了され、創作へと駆り立てられた。
コレクションを織り上げる赤い糸は、個人の内面的な多様性と複雑さを表している。それぞれのドレスは、ミニマルでデザインでありながらも、魂の叫びをあわらし、それらすべてが混ざり合った“人間”というものの存在を表現した。
濃密な赤が加えられている以外は、モノトーンで統一された落ち着きのあるパレット。意図的に輝きを排除したテキスタイルは、目を凝らすほどにクチュールらしい威厳のある優雅さが感じられる要素が散りばめられている。やや男性的なジャケットの合わせたタイトなシルエットのパンツや、流れるようなドレス、厳粛でパワフルなマント。一方で女性らしいタフタや刺繍をあしらったオーガンジーといった贅沢な素材を合わせることで、豊かな表現の幅を見て取れる。
足元の厚底ブーティーやレザーストリングのジュエリーが洋服とのコントラストに。情熱や感情に突き動かされ、時に「自分」を演じてしまう、この混沌とした世界にヴァレンティノのコレクションがひとつの世界を描き出した。
コレクション発表後、マリア・グラツィア・キウリが退任を発表。ピエール・パオロ・ピッチョーリと2人で披露する最後のシーズンとなった。