ポール・スミス(Paul Smith)が2016年春夏メンズコレクションを、フランス・パリで発表した。
ポップでカラフルな色合い、精緻なテーラード、ロックの匂い……ポール・スミスという名前を聞けば、こうしたイメージを抱く人は少なくないはず。そしてそれは、もしかするとブランドの得意とするスタイル、いわばアイデンティティと言い換えても良いのかもしれない。今季のコレクションは、この得意のパターンが特に色濃く出たシーズンだと言える。「independent minds (何ものにもとらわれない独立心)」という、抽象的でとらえどころのない、けれども力強い言葉をキーワードにして。
コレクションは、ポール得意のジャケットをメインとしたスタイルを中心に構成される。しかしながら、現在主流となっているような、体にフィットするシャープなシルエットのジャケットは、数えるほどしか出てこない。多いのは、身幅がゆったりととってあり、ときにはダブルブレストでビッグショルダーといったふうに、まるで90年代を想起させるようなシルエットのものだ。今季のショーではその個性的なジャケットに対し、タイトなパンツを合わせてメリハリをつけたり、逆に太いパンツでルーズな印象にしたりしながら、あえて時代を交錯させたようなスタイルに。エッジィな存在感を漂わせていく。
その一方で、軽やかなカラーパレットも、春夏らしさを演出するポイントとしてしっかりと機能している。今シーズンの色彩は、20世紀を代表するイギリス人画家、デイヴィッド・ホックニーの作品からインスパイア。ポップアートの先駆者として知られ、キャッチーで晴れやかな作風を発表し続ける彼の世界観は、まるでアコーディオンのようにじゃばら折りにされたトートバッグに始まり、カラフルなジャケットやパンツ、ソックス、シューズに至るまで、様々な色として現れ、コーディネートを彩っていく。さらには、生地の上から筆で書いたような白黒のドット、パンツやTシャツに落とし込まれたアリのグラフィックなども、どこかポップアート的な香りを含んでいて、彼の世界観をより強める一因となっていた。
そして最後に、ギラギラとしたロックな雰囲気というものも、外すことのできない重要な要素だろう。レザーやメタリック素材が放つ光沢感、とびきりタイトなパンツ、鋭い印象のサングラス、シャープなトゥのボリューミーなシューズ。こうしたアイテムを合わせることで、スタイルに統一感が生まれ、様々な要素が入り混じるコレクションを、ひとつの方向へ導く役割を果たしていた。