ケンゾー(KENZO)の2016年春夏コレクションは、地図に載っていない土地を放浪する一人の男をイメージして作られている。会場には乾いたベージュの砂と大きな岩。クレーターだらけの月よりはもう少し地球に近いが、どこか違う星に迷い込んでしまったような錯覚に囚われる。
最初に現れたのは、ボックスシルエットのグレージュのスーツにサンダル&ソックスのシンプルな出で立ちのモデル。ジャケットの袖にはドローコードが埋め込まれていて、胸の引き手の紐を少し締めることで美しい曲線を表現している。パンツは4つの大きなポケットと裾にストラップが付いたミリタリーパンツ。ミニマルだけれど機能的で、酸素がある星を探索するための宇宙服みたいだ。
ドローコードのディテールはジャケット以外にも多用されている。分かりやすく「PULL」と書かれたスウェットシャツの中央には、×印のようにドローコードが配してある。ゆったりしたシルエットのパンツは、ウエストがゴム&ドローコードのイージーパンツ仕様になっている。縦に長いシルエットのハイネックカットソーは、袖にホワイトのドローコードを収めるテープが張られていて、その中からブラックの紐が対照的に伸びている。これらは、肘の部分に切り込みが入れられたジャケットを含め、“サファリ・パンク”と形容したくなるようなアイテムだ。
中盤に入ると、より冒険色の強いウェアが登場。強い日差しで退色したようなイエローのツナギは、宇宙船の整備士のよう。ディテールを削ぎ落としたサファリスーツ(ジャケットの裾はパンツにイン!)は、どこか男の郷愁を感じさせるアイテムだ。凝ったブリーチのデニムも見所のひとつ。サイドの部分のみが濃いブルーになったジーンズは、70年代のヒッピーがサイドの部分を縫って履き込んでから解いたような雰囲気。縦に5色に染め分けた岡山のデニム産地も驚くような技術を駆使したジーンズもある。
カラーパレットは、砂漠に馴染むようなブラウンベースのカモフラージュをイメージ。ベージュや日焼けしたイエロー、石のようなグレー、ブラウンをメインカラーに、鮮やかなサボテンのグリーンと花のピンクをちりばめている。砂と岩と同化したような印象的なプリントは、月面図と砂の波形がモチーフ。恐竜の肌のような立体的な表情のニットは、サボテンをイメージして製作したものだ。
1980年〜90年代初頭のロゴ物をいち早く取り入れたケンゾーだが、今回はわずかにスウェットシャツに控え目に主張するのみ。シルエットや色を含めて、ぐっと大人向けにシフトした印象を受ける。
TEXT by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)