2015年3月20日(金)、渋谷ヒカリエ。ウィズリミテッド(WHIZ LIMITED)のショー会場に着くと、そこにはまるで、スタジアムのように高いフェンスに囲まれたランウェイがあった。席についてしばらくすると、突然、異様なほどの爆音でかけられたヒップホップが、空間を揺らし始める。暗闇の中、回転しだす青い照明。奥から1体目のモデルが現れる。
「15周年を迎えるにあたって、過去15年作ってきたものだけを集めて、ショーをやろうと思いました」とデザイナーの下野宏明。その言葉通り、今回登場したのは、リサイズなどの修正を全く加えていないアーカイブの数々だった。ベースボールジャケットにはじまり、リメイク風のデニムジャケット、シルバーのダウンベストとナイロンパーカーのレイヤード。序盤からそうしたアイテムを取り入れながら、ひねりの効いたストリートスタイルが続く。ブランドとともに歩んできた、2000年代の裏原宿カルチャー。その時代の空気感を、そのまま過去から運んでくるかのようだ。
そして今回のショーは、15年で培ってきたブランドのアイデンティティ、その中にある記憶の断片を、まとめて私たちに見せてくれた。デニム素材やバンダナ柄などから感じるカジュアルなアメリカの匂いと、国旗やストライプ、タータンチェックの放つロックなイギリスの匂い。それらを自由に組み合わせ、ゆったりとしたシルエットに落とし込んだスタイルは、初めから終わりまで変わることなく続いていく。その中で、時折ステューシーなど他ブランドのロゴも見える。ここに示されるのは、積極的にコラボレーションを続けてきたブランドの姿勢だろう。
そうしてショーはフィナーレへ。会場のスクリーンには、コレクションを発表した過去のシーズンとそのテーマが、次々と投射されていった。映画のエンドロールのように流れる白の文字だけが、流れてきた歳月の長さと重みを伝える。その最後にあった文字が「2015 A/W RIGHT HERE」。今シーズンのテーマだ。
すぐさま爆音が、はじめよりも大音量のデスボイスが会場に鳴り響くと、フェンスの中はモノグラム柄のヘッドギアをつけたモデルたちで溢れかえる。身にまとっているのはもちろん、2015年秋冬シーズンのコレクションだ。ヘッドギアに加えて、キルティングやレザー、ダウンなどタフな素材のアイテムもまた、闘う男の強さ、勢いを感じさせた。
下野がブランドをスタートした2000年は、まさに裏原宿ブームの最盛期。ほとんどの知り合いが自分のブランドを持っている状況だったとう。しかし金銭的な余裕もなかった彼は「始めた時から目標はなく、ただ1日でも長く、ということしか考えていなかった」という。そうして月日が経った今、気付けば周囲のブランドは、ほとんど姿を消していた。裏原ブームの終焉とともに。
消費されないストリートカルチャー。下野が貫いてきたのは、そんなトレンドに左右されないものづくりだったという。つまり今回のアーカイブショーは、単なる回顧ではなく、ここ15年の集大成。何年経っても着れるものを生み出してきたことに対する、自信の証なのだろう。