ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)が恵比寿ガーデンホールで発表した、2015-16年秋冬コレクション。
暗くなった会場に浮かぶ、緑に照らされたスクリーンには、木々の陰が映し出されていた。その前へ立つ、1人のモデル。身に着けているのは、レオパード柄が切り換えられたブラックのタイツと、胸元にヒョウの顔がデザインされたホワイトのミニドレスだ。まるで何か動物の耳のような、大きなヘッドピースとともに。
深い森へーー。そんなテーマを掲げる今季のコレクションでは、森の中のさまざまな生命と、そこに生まれる変化や物語が、贅沢なまでの素材や技術とともに表現されていた。ファーストルックから一転、明るくなった照明と音楽の中に現れたのは、鹿や鳥などの動物たちが大胆に刺繍されたウェアの数々。イエローグリーンやブルー、パープルなどのヴィヴィッドな色彩と、ゆとりのあるシルエット、落とし込まれた生き物のモチーフが呼応して、昼間の森の生き生きとした情景を運んでくるようだ。徐々にバーガンディなどの落ち着いた色合いが使われはじめると、森の奥へと歩みを進めていったかのように、少しずつ暗く変化していくムード。気付けば、いつしか動物たちはドレスから姿を消していた。葉の無い木。ジャケットやドレス、スカートには、そんな木のモチーフが無造作に現れ始め、徐々に不気味な様相を呈し始めてゆく。
がらりと雰囲気が変わったのは、ベージュのチェック柄が使われはじめてからだった。時々ベージュにライトブルーがまぎれてアクセントになり、ファーや起毛のバッグやスニーカーが、コーディネートに獣の気配を忍ばせる。ショーは続き、さらなる森奥、カーキの世界へ。千鳥格子と花柄を重ねたグラフィックのドレスや、構築的なアームのトップス、花柄の織りやファーを贅沢に使用したコート。シックな色使いの一方で、モードの香りを含んだラグジュアリーなアイテムは、観衆の目を惹き付けた。
終盤は暗闇が辺り一帯を包むように、ブラックを基調にしたモードなスタイルが続いていった。メインとなるのは、ラインの入ったロングコートに柄タイツ、メタリックな装飾のフラットシューズのコーディネート。所々で、シルクのような光沢素材が変化を加える。と、あるとき突然、森を抜けたかのように視界が開けた。現れたのは、鮮やかなグラフィックがプリントされたダウンやドレス。燃えるようなイエローグラデーションの夕焼けをバックに、鳥たちは飛びまわり、木は空に向かって伸びている。そしてまたもや照明が落とされると、ラストのルックが登場した。そこにあったのは、始めと同じくヒョウのドレス。一体何を意味するのだろう。その不思議な一致は、会場に謎めいた余韻を残した。