リトゥン バイ(written by)が、「漂泊の詩人」をテーマに、2015年春夏コレクションを発表した。
デザイナーの山縣良和がフォーカスを当てたのは、鳥取県出身の俳人・尾崎放哉。尾崎は、東京帝国大学(現東京大学)を卒業後、エリート街道を進んでいた。しかしある日突然、財産や家族をすべて捨て、寺を点々とする放浪の旅に出る。貧しい生活の中で、自由で力強い俳句をたくさん生み出したが、最後は小豆島で命を絶った。そんな尾崎の儚くも尊い一生を時系列で追った、コレクションを披露した。
優しい妻に恵まれ、夫婦仲睦まじい時代を現した“おしどり”の刺繍入りスウェットからコレクションはスタート。鳥取県の県鳥でもあるおしどりの夫婦が寄り添う姿を、カラフルな刺繍で表現した。
その後放浪の旅へと出発し、浮浪者となった尾崎。極貧の生活を送る中、体調を崩し救急車で病院へ運ばれた。その様を表したのは、ピンクのラグランスリーブが愛らしい、救急車プリントのプルオーバーニット。さらに入院中のパジャマ、医者のドクターコートや手術衣、ナース服などを模したシャツやパンツなどがコレクションを彩る。お見舞いの象徴である花束は、装いを飾るコサージュとして登場。
霊きゅう車を刺繍したスウェットトップスには、貼ってはがせるベルクロを採用し、天に召されて逝く悲しい姿に遊び心を加え、シュールな世界観を演出した。また尾崎の代表句「咳をしても一人 墓のうらに廻る こんなよい月を一人で見て寝る…」をプリントした缶バッチなどの小物は、装いにアクセントをプラス。中には鳥取県を拠点に活躍した写真家・植田正治の作品をプリントしたTシャツなど、デザイナー山縣の郷土愛を感じさせるアイテムも。
コレクションは、かつて学校だった東京・神保町にある東京學會本館にて発表された。フラワーアーティストの塚田有一が手掛けた背の高い草花のアレンジメントと、鳥取県の横田医院から取り寄せた木製のベッドが飾られた会場は、奇妙な雰囲気が漂っていた。
今季は珍しくホワイト、ブラックが中心とした落ち着いたパレットで、ストーリー性のあるをルックを展開。ベーシックなデザインだが、制作時に込められた思いを知ることで、より1つ1つのアイテムを好きになってしまうような、人間味あふれるコレクションとなった。