それにしても前に進みづらそうである。リーゼントヘアのパンクな兵士が履くのは、極端につま先のソールが伸びたサイドゴアブーツ=プーレーヌ(14〜15世紀のヨーロッパで上流階級の靴として履かれた)。足を踏み出す度に膝を突くようにしなるプーレーヌは、貴族が豊かさを誇示するためにその長さを競った本来の用途とは違い、何か得体の知れない重りを背負っているようにも見える。コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)の2015年春夏コレクションは、何ともぎこちなく歩く兵士の行進で幕を開けた。
コレクションの核を成す「兵士の制服」の大枠は、昔日の軍服に則ったレプリカに近い本格的な作りである。その堅苦しくも見える構築的なパターンに、パンクな味付け(X型のヒョウ柄の切り替えや、ジャケットのウエストやヘムにヒョウ柄やトロピカル柄の別布を配する)を施すことで、重さを軽減している。セットアップのパンツは、ミリタリーパンツ風の太目の7部丈や、2タックの太目のショーツ、キルト風のスカートなど。素材はウールが中心で、ストライプのスーツ地、厚手のヘリンボーンを用いている。
軍服の間に挟み込まれたテーラードのセットアップは、それ単体ではミリタリーとは無関係に見えるが、ジャケットの上にハニカム状のメッシュのトレンチコートを羽織ることで、兵の一員であることを示している。白地に黒のモチーフをランダムにプリントしたセットアップスーツは、目を凝らして見ると十字の救急や平和を願う鳩のマーク、爆弾が爆発したような形状がちりばめられている。黒×赤のジャカードのコートは、有刺鉄線のような千鳥格子風の柄で、さらに上から菱形の黒い布で切り替えられている。
後半に入ると、軍服やTシャツの上に落書きのようなメッセージが描かれる。「Soldier of Peace」「Strong Lover」「Anything war can do peace can do better」「Peace, Love, Empathy」……といった言霊。そう、コム デ ギャルソン・オム プリュスの2015年春夏コレクションは、ファッションを通して戦争のない世界の実現を訴える“平和の軍隊”なのだ。
「戦争のない世界」は、全世界の英知が知恵を絞ってもそう簡単に実現するものではないのは歴史が証明している。けれど、70年代にジョン・レノンがイマジンを歌ったように、誰かが言わなければ動かなければ実現することは決してないだろう。それがたとえ小さな一歩でも踏み出すことが大切なのだ……そんな川久保玲の思いが伝わってくるコレクションだった。
Text by Kaijiro Masuda(FASHION JOURNALIST)