ダブレット(doublet)の2024年秋冬コレクションが発表された。
「THE CURE」、つまり「治療」や「癒し」をテーマとした、今季のダブレット。構造的には、闇から光へ、死から生へと向かう動きを「癒し」と捉えるならば、その特権的なモチーフこそ、死してもなお蠢いてやまない、ゾンビという存在であったようだ。
ゾンビのおどろおどろしさは、パターンや素材、ディテールによって、ある種のウィットを含ませつつ巧みに表現されている。たとえば、クラシカルなハリスツイード(Harris Tweed)のスーツは、端正に立ったときではなく、身体を捩ったようなポーズのときに合わせて構築。立体的なパターンをベースとしつつも、独特の歪みを帯びた表情に仕上げている。
この世を去った人の「死後の生」を願うのが、ミイラだろう。包帯でぐるぐる巻きにされたミイラの姿は、パッチワーク状に仕上げたニットやデニムパンツ、カットソーのデザインに着想を与えている。つまり、ニットやデニム、カットソー素材のパッチを、包帯よろしく繋ぎあわせ、それを身体に巻き付けるかのように組み上げているのだ。ミイラを真似たような遊び心を示しつつ、そこには粛々と手を動かすひたむきさが感じられる。
癒しというテーマは、それこそ体の疲れを和らげ、健康を促進させる、日常のモチーフを取り入れることでもなされている。たとえば、温泉。なめらかなカシミヤ混素材を用いたテーラードジャケットは、バックに大胆なスリットを設け、ライニングには暖簾をモチーフとしたプリントを施すことで、それ自体温泉の暖簾を彷彿とさせる1着に。ファブリックには温泉の成分を吹き付けているらしく、その効果はジャケットを身にまとうだけでも表れるとか、表れないとか……。
ユーモアを含ませつつ、死と生をめぐる物語を紡ぐ今季のダブレットを象徴するのが、温かみのあるシルクのニードルパンチを用いたアウターであるように思われる。そもそも蚕とは、すぐれて死と生のリズムを体現する生き物ではなかろうか。4回の脱皮を繰り返すその生態が、死と生の反復を思わせるばかりではない。糸を取り出すには、命ある蛹の生を奪わざるをえず、だから生糸とは蚕の命そのものにほかならないのだから──。蚕の姿が安らうシルクのボンバージャケットやロングコートには、だから、再生への希望が蚕に仮託されて宿っているのではなかろうか。