シャネル(CHANEL)の2023/24年メティエダールコレクションのインスピレーションソースとなったのは、音楽カルチャーの基盤と呼べるイギリス・マンチェスター。アーティスティック ディレクターのヴィルジニー ヴィアールは、この地を“音楽の街”であり、“創作意欲を掻き立てる街”だとも言う。夕暮れ時、マンチェスター北部のトーマス ストリートで行われたランウェイは、ひときわ音楽性と創造性にあふれ、活気に満ちたひと時となった。
活気の源となったのは、夕暮れ時でも映えるようにとセレクトされたカラーパレットだ。とりわけイギリス発祥の音楽がムーブメントを起こした1960年代を彷彿とさせるムードに着目したという色合いは、カラフルでプレイフル。当時のファッショントレンドであるポップなカラーが次々と登場している。
メゾンのコードに忠実でありたいという想いも強い今季。ランウェイの主役に躍り出たのは、言わずもがなメゾンを象徴するファブリックであるツイード。終始一貫して存在感を放ち、ある時は愛らしくフェミニンに、またある時はクラシックかつエレガントにと、表情を変えて登場している。目を凝らせばディテールでもメゾンの真髄は感じられ、ジャケットの裾には、シャネルのスーツの定番的なデザインとも言える、シルエットを美しく魅せるためのチェーンが施されている。
上下共布のセットアップ、つまるところシャネルのスーツは、目くるめくカラーパレットとともにあらゆるバリエーションで提案されている。トップスおよびジャケットは、ダブルのノーカラー、コンパクトなノースリーブ、身体のラインに添うステンカラーのタイプなど。一方ボトムスは、英国に倣ったスタイルも多く、ラップスカート、バミューダパンツ、ミニ丈のタイトスカートなど、まるで女性の“その日の気分”を表すような自由さがある。
少し異質的とも思えるのが、1960年代の自由闊達なムードに由来するデニムやレザーのスタイルだ。デニムのセットアップは、フリルや大胆なアクセサリーによってアレンジ。光沢のあるブラックレザーのスーツは、クラシカルを基軸としつつ、1960年代のパンクブームを彷彿とさせる。
創造性が膨らんだ今季のコレクションにおいて、クリエイティビティを加味する職人技への言及は忘れてはならない。メティエダールのアトリエで職人たちが手掛けているプリーツやフェザー、精緻な刺繍は、それぞれのルックに特別感を生む。ティーポットやレコードなどのモチーフも取り入れて、楽しさをたっぷりと表現している。また、チャーミングなリボンのディテールは甘いニュアンスを、カメリアの花はエレガンスを表現する重要な手段に思えた。