アタッチメント(ATTACHMENT)の2024年春夏コレクションが発表された。
今季、デザイナーの榎本光希が着想源としたのは、視点の変化に伴う形の変容であったという。アタッチメントは2023年秋冬、やはり榎本が手がけるヴェイン(VEIN)とともに合同ショーを行い、その会場は東京の国立競技場であった。天井を見上げると、無限に広がるかのような空が、建物の形にしたがって楕円状に縁取られる。さらにそれを写真で捉えれば、天井と空が描きだすダイナミックな楕円は矩形で切り取られることになる。
近代建築や写真の構図といった無機質的なフィルターを介して現れるのは、モノクロームに抑えられ、奥行きを奪われた形のコンポジションだ。だから、今季のアタッチメントが主要なモチーフとしたのは、幾何学的な色面によって抽象的な画面を構成したアメリカの画家エルズワース・ケリーの作品である。
冷え冷えとしたケリーの幾何学的コンポジションは、だから、シャープなラインを基調に、色数を抑制したミニマルなウェアに反映されているといえる。たとえばジャケットは、ラペルを排除したノーカラー仕様。ショルダーはセットインに設定しつつ、シルエットは縦のラインを強調、重心を下方に設定することで、端正な表情とすっきりとした抜け感を醸しだしている。
ケリーの作品に見られる、色面による幾何学的な画面構成は、素材の切り替えにも見てとることができる。カットソーやパンツは、全体を淡いワントーンで仕上げながらも、ダイナミックに組織を変えることで、ニュアンスを湛えた表情の変化を織りなしている。
ところで本コレクションの一部は、2023年7月11日(火)、ヴェインの2024年春夏のショーののち、インスタレーション形式でも発表されている。その会場に流れていたのは、ことによると、グレン・グールドが奏でるバッハの《ゴルトベルク変奏曲》ではなかったか。グールドはその後半生、演奏会からは身を引き、レコード録音やラジオ放送など、いわばメディアに「媒介された」場で活動を続けた。ヴェインがコンセプトとしたのが「アウラ」──複製技術が発達した時代における作品の一回性の謂い──であったことを思うならば、アタッチメントの発表形式は、グールドのバッハを通じてヴェインのコレクションと緩やかに繋がっているといえるのかもしれない。