エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)の2024年春夏メンズコレクションが、2023年6月17日(土)、イタリア・ミラノにて発表された。テーマは、「THE ESSENCE OF THE NIGHT」。
銀杏の葉は二股に分かれており、これはひとひらの葉がふたつに分かれたのか、あるいは2枚の葉が相手を見つけてひとつになったのか。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはその詩篇「銀杏の葉」において、このように問いかけたのちに続ける──「あなたはわたしの歌をきくたびにお感じになりませんか、/私が一枚でありながら/あなたと結ばれた二ひらの葉であることを?」(手塚富雄訳)
銀杏の葉における出会いの幸福を謳ったゲーテのこの詩へと誘ったのは、今季のエンポリオ アルマーニの随所に散りばめられた銀杏の葉のモチーフである。シャツにのせられるのはもちろん、端正なテーラードジャケットにおいては、ややダブルブレストに寄せたラペルを、樹木の有機的な曲線が心地よく流れる。ジャカードの植物模様も麗しくきらめく。テーラリングはここで、身体のフォルムを美しくなぞる研ぎ澄まされた均整以上に、豊かな生命感を示している。
テーラリングについてもう幾分敷衍するならば、やはりここで、エレガントでありながらも快適さを求める志向が通底していることは言うまでもない。あるいは、薄く繊細なファブリックを用いることで、タックインができるほどに柔らかなスーツもまた見ることができる。テーラリングはここで、決してソリッドなものではない。今季のテーマが示すように、いわゆるイヴニングスタイルは夜のみならず、その有機的・流動的な表情でもって、あらゆる時間帯において魅惑を発露するのだといえる。
ところで、なぜ銀杏の葉に「出会いの幸福」が詠まれるのだろう。世界最古の現生樹種とされる銀杏は、中国原産であり、中国から日本に伝わったのち、17世紀の鎖国の時代、ドイツ人の医師・博物学者のエンゲルベルト・ケンペルが出島からオランダに持ち帰り、ヨーロッパに広がった。ゲーテの詩は、銀杏のこうした伝播と他所なる地との出会いを背景に生まれたものなのだろう。
もし今季のコレクションに東洋の香りを感じることができるのならば、それは銀杏の誘いによるのではなかろうか。些か牽強付会には過ぎるかもしれないが、ファブリックの面を大きく取り、身体のフォルムとの均衡から離れたところに、たとえばそうした要素を見てとることができる。フロントに量感をとったブルゾンは、ハリのある素材感ゆえ、ドレープよりもすぐれて面としての存在感を示す。あるいは、平面としての布地を身体に纏う、その可塑性から生まれる柔らかなドレープもまた、随所に見てとれる。
そして、ファブリックは時として、光を透かす葉のように繊細で、官能的だ。エンポリオ アルマーニの重要なモチーフをなすミリタリーにおいても、アノラックやモッズコートなど、いずれも決して重厚ではなく、シアー素材が軽快な息吹を吹き込んでいる。