特別展「大蒔絵展─漆と金の千年物語」が、名古屋の徳川美術館にて、2023年4月15日(土)から5月28日(日)まで開催される。MOA美術館や三井記念美術館でも開催された巡回展だ。
「蒔絵(まきえ)」とは、漆で絵を描き、金粉や銀粉を蒔きつけて文様をあらわす装飾技法であり、日本文化においては長きにわたって理想美の象徴と捉えられてきた。特別展「大蒔絵展─漆と金の千年物語」では、国宝14件、重要文化財24件を含む約120件を通して、平安時代から現代に至る蒔絵の展開を紹介する。
宮廷を中心として貴族文化が花開いた平安時代には、和様の美が育まれた。宮廷の優雅な生活文化を反映する例が、格式の高い神社に伝来する「神宝」である。最澄が開いた天台宗では、写経の功徳が説かれたため、美を尽くした装飾経が制作された。一方、空海によって大成された真言宗の寺院には、袈裟や宝珠、経典を収めるための蒔絵の名品が伝えられている。本展の序盤では、《仏功徳蒔絵経箱》や《籬菊螺鈿蒔絵硯箱》(ともに国宝)など、神々や仏を荘厳する蒔絵の数々を展示する。
鎌倉時代には、蒔絵の基本的な3技法、研出(とぎだし)蒔絵、平(ひら)蒔絵、そして高(たか)蒔絵が完成し、力強い輝きを持つ金地も生みだされている。この時代の蒔絵の特徴が、和歌や漢詩にちなんだ歌絵であり、これは平安王朝の様式を踏襲しつつ、和歌や説話といった文学意匠を特徴とする室町蒔絵へと展開する過渡的な段階にあるといえる。会場では、《山水人物蒔絵手箱》(重要文化財)をはじめ、鎌倉蒔絵の手箱の名品を目にすることができる。
室町時代から桃山時代にかけて、技法と意匠をいっそう発展させた蒔絵は、江戸時代において、それまで培われてきた技法を集約し、多様な表現が試みられることとなった。室町時代に登場した蒔絵の家系、幸阿弥(こうあみ)家や五十嵐(いがらし)家などが御用蒔絵師として伝統を継承する一方、本阿弥光悦や尾形光琳のように個性的な活動を行う作家も現れている。また、当時の社会的な安定を背景に人びとの暮らしにゆとりが生まれ、生活を彩る蒔絵の小品も手がけられた。本展では、当時の蒔絵を代表する《初音蒔絵調度》(国宝)などから、江戸蒔絵の諸相に光をあてる。
明治時代に入ると、大名や公家といったパトロンが衰退し、蒔絵師は後ろ盾を喪失することになった。そうしたなかで蒔絵師は、政府が推進する殖産興業政策のもと、欧米に向けた輸出工芸を手がけるほか、当時国内で開催されるようになった博覧会に蒔絵を出品している。さらに、帝室による美術工芸作家の保護と制作奨励を目的とする帝室技芸員制度も、伝統工芸の保護と発展を促した。会場の終盤では、輸出用の蒔絵制作に携わり、帝室技芸員としても活躍した川之辺一朝(かわのべ いっちょう)や白山松哉(しらやま しょうさい)などの優品を目にすることができる。
さらに本展では、《源氏物語絵巻》(国宝)をはじめとする物語絵巻、屏風や書籍なども展示し、日本文化において追求されてきた美の系譜をたどってゆく。
特別展「大蒔絵展─漆と金の千年物語」
会期:2023年4月15日(土)~5月28日(日)
会場:徳川美術館
住所:愛知県名古屋市東区徳川町1017
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日
※ゴールデンウィーク期間(5月2日(火)~5月7日(日))中は無休
観覧料:観覧料:一般 1,600円(1,400円)、高校・大学生 800円(700円)、小・中学生 500円(400円)
※企画展「能の世界─神・男・女・狂・鬼─」と共通
※( )内は20名以上の団体料金
※毎週土曜日は小学・中学・高校生の入館無料
■巡回情報〈いずれも会期終了〉
・静岡会場
会期:2022年4月1日(金)~5月8日(日)
会場:MOA美術館 (静岡県熱海市桃山町26-2)
・東京会場
会期:2022年10月1日(土)~11月13日(日)
会場:三井記念美術館 (東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館 7F)
【問い合わせ先】
徳川美術館
TEL:052-935-6262