ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)の2023年秋冬コレクションが、2023年3月18日(土)、東京・渋谷にて発表された。
「禁欲のエロティシズム」という逆説を弄することを許されたい。なぜならば、今季のケイスケヨシダが試みているのは、身体を構築的なシルエットへと閉じるテーラリングによって身体をなぞり、それをもって官能性をかすかに匂わせることにあるように思われるからだ。
冒頭で書いたように、今季の軸となるのは、テーラリングをはじめとするフォーマルウェアだ。たとえばテーラードジャケットやロングコートは、ややショルダーを誇張し、丈感は長めに、ラペルの重心は極端に上方へと設定することで、力強く、身体を隈なく覆うかのような佇まいに仕立てている。
では、テーラリングが匂わせる官能性とは何か。首元まで覆うかのようなジャケットは、しかしバックにブラウスを彷彿とさせるスリットを採用。スカーフやレース飾りの華やぐブラウス、これと合わせたスカートは、身体のフォルムを透かして見せるかのようにすっきりとしたシルエットに仕上げている。
そもそも衣服とは、身体を覆うことで逆説的に生身の身体を感じさせるところに、その官能性のエッセンスを持っていた。裸体がエロティックたりうるのは衣服を脱ぎ去るがゆえのこと。ヌードとは、衣服を纏う振る舞いを起点として、むしろ事後的に立ち現れるものなのだ。
ケイスケヨシダは、衣服でもって身体をなぞる。そうしてなぞられた輪郭が、身体を覆ってはいるものの、むしろそれゆえに身体の色香を醸し出す。それはある意味でフェティッシュだ。だから、テーラリングの素材においても、シックな無地やグレンチェックにとどまらず、艶かしく光沢を放つシンセティックレザーやベルベットを随所に見てとることができるのだといえよう。