渡辺儀助、77歳。
大学教授の職を辞して10年—妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。
映画『敵』は、小説家・筒井康隆による同題の小説を映画化した作品。妻に先立たれた後、自由で堅実な余生を独りで送っている男のもとへ、ある日突然、日常を脅かす“敵”が現れる。そんな人生の最期を繊細かつ力強く描き出す。主演は長塚京三。監督は吉田大八。