鉱山の閉鎖によって、経済的に落ち込んだトランシルヴァニア地方の村。そんな村に、出稼ぎ先のドイツで暴力沙汰を起こした粗野な男マティアスが帰郷する。しかし、疎遠だった妻との関係は冷めきっており、森でのあることをきっかけに口がきけなくなった幼い息子、病気で衰弱した高齢の父への接し方にも迷うマティアスは、元恋人のシーラに心の安らぎを求める。ところがシーラがが責任者を務める地元のパン工場が、スリランカからの外国人労働者を迎え入れたことをきっかけに、よそ者を異端視した村人たちとの間に不穏な空気が流れ出す。やがて、その小さな諍いは村全体を揺るがす激しい対立へと発展し、マティアスやシーラの人生をも一変させていく。
映画『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニア中部トランシルヴァニア地方の小さな村を舞台とした群像劇。幾多の火種を抱えたヨーロッパの不穏な新世紀と、分断され引き裂かれた世界の現状をあぶり出し、不穏な新世紀の新たな現実と、予言の黙示録など寓意に満ちた社会派サスペンス映画に仕上げている。
物語の舞台となるのは、ブラム・ストーカーの古典的な恐怖小説『吸血鬼ドラキュラ』の舞台としても有名なルーマニア・トランシルヴァニア地方。古くからの伝統行事が受け継がれ、ヨーロッパ有数の野生動物の生息地でもあるこの地は、ルーマニア人とハンガリー人、少数のドイツ人やロマの人々が暮らし、多言語が飛び交う特異な地域である。そんなトランシルヴァニア特有の風土を余すことなくカメラに収めた本作では、他民族の村で起こる人間の対立と凶暴性を描き出している。
監督を務めるのは、社会と人間を鋭く見据えた作品を多く生み出すルーマニアン・ニューウェーブの潮流を牽引してきたルーマニアの巨星クリスティアン・ムンジウだ。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の『4ヶ月、3週と2日』、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した『エリザのために』などを手掛け、今回の映画『ヨーロッパ新世紀』は、6年ぶりに手掛ける作品となる。